夜は短し歩けよ吞み助(ノベッセイ企画別冊)


夜の道草。それは(?み助な)大人だけの特権。
二十歳過ぎた?み助ならば、誰もが啄む道草だ。

そう梯子酒である。

一口に梯子酒と言っても色々ある。

ただひたすらにバーというバーを巡るもの。

延々と綺麗なお姉さま方のいるお店を回るもの。

人それぞれの梯子酒があると思う。

 

かくいう私の中での梯子酒と言えば、一軒目で食事をとりつつ、たしなむ程度に酒を飲み、二軒目以降でじっくりと酒だけを楽しむ。

だいたい、このパターンが多い。

以前呉で飲んだ時は、一軒目に焼き肉屋、二件目にカクテルの美味いバーだった。

一軒目の焼き肉屋では、思う存分肉と酒を楽しませてもらったよ。
まず、牛タンを肴に一杯目の生ビールをゆっくり流しこむ。
ごくっごくっという喉の音を楽しみつつ、軽く塩コショウで味付けした牛タンを頬張っていく。
牛タンから溢れ出る肉汁を洗い流すかのように、再び麦の酒を口に含む。
まさに至福のひととき。

だが、まだこれでは終わらない。

次に頼むは牛ハラミ。そして、麦焼酎の水割り。
しっかりと火を通したハラミをタレに絡めて一口でいただく。
こってりしつつ、しかし引き締まった肉の味が口の中に広がっていく。
一つ、また一つと口の中へ放り込んでいく。
こう肉ばかり続くと、口の中が脂っこくなってしまう。
その為の焼酎の水割りだ。
油まみれな口の中を、麦焼酎の爽やかな風味が駆け抜けていく。
いやぁ、堪らない。

二軒目は、以前から通わせて頂いているバー。

ここのマスターはカクテルコンテストで入賞する腕利きバーテンダー
さっそく一杯目はロブ・ロイ。
スコッチウイスキーとスイートベルモット、それにアンゴスチュラビター。
それらをステアし、最後にマラスキーノ・チェリーを添える。

差し出されたロブ・ロイを一口流しこむ。
口の中に広がる、ほんのり甘口なアルコールの味。

ああ、美味い。

ちなみにカクテル言葉は『あなたの心を奪いたい』だそうだ。
ここのマスターのロブ・ロイには既に心奪われたがね。

二杯目は、ギムレット

レイモンド・チャンドラーの「長い別れ」で登場するカクテル。
主人公フィリップ・マーロウと、その友人テリー・レノックスの友情を象徴するカクテル。

「長いお別れ」を読んで以来、バーに来ると頼むカクテルの一つとして定着している。

ギムレットを御存じない方に説明すると、
ジンをベースにライムジュースを加え、シェークするカクテルだ。
ジンとライムがベースなのでキリッとした味わい。

ちなみに、「長いお別れ」では
ギムレットはライムジュースとジンだけで作るものだ
と言及されている。

実はこの話には背景があってね。

イギリスにあるザ・サヴォイというホテルのバーテンダー
ハリー・クラドック。
彼が作るギムレットプリマス・ジンとローズのライムジュース。
それを一対一で作るものだった。

テリー・レノックスはそのことを知ってて、本当のギムレットとはと語っていたのさ。
ちなみに、クラドックのレシピは「ザ・サヴォイ」というタイトルで出版されている。
カクテルがお好きな人ならぜひ一読されるといい。

目の前に置かれたギムレットを眺めつつ、そんなことを考えていた。

いかんいかん、上手いカクテルはできるだけはやめに頂くに限る。

スッと一口含むと、さっきまで肉三昧だった口の中が、爽やかなライムの風味で満たされる。
キリッとした口当たり。そしてライムの爽やかな風味。
うん、美味い。
付け合わせのハムとチーズのミルフィーユにも合う。

そして最後に、シングルモルトスコッチウイスキー
銘柄はグレンリヴェット12年。
飲み方はロックで。

鼻を抜けるシェリー酒の香り。
こいつが堪らないんだ。

数あるシングルモルトの中でもグレンリヴェットマッカラン、そしてボウモアはお気に入りだ。
中でもグレンリヴェットシェリー酒の香りは鼻で楽しむには格別だ。

周りの喧騒を肴に、少しづつ溶けていく氷を眺める優雅な一時だ。


まあ、長々飲んだくれた話を書いてきたが
結局何が言いたいのかといえば

夜の道草は、楽しいってことさ。